「遺産分割による代償譲渡」と登記原因とすることの可否
記事投稿日時:2009年09月29日火曜日
投稿者:司法書士 山口達夫事務所 カテゴリー: General
アクセスありがとうございます。
補助者の山口です。
遺産分割で代償分割をした場合に、
相続人から他の相続人への移転する不動産の登記原因は
「遺産分割による贈与」です。
同様の事例で「遺産分割による代償譲渡」を原因とする登記申請を
添付情報が適正でないとして却下した処分につき訴訟となり、
昨年、最高裁で却下した処分が違法と判断されました。(平成20年12月11日判決)
そこで、「遺産分割による代償譲渡」を原因とする登記も可能になるのか
多少議論がありました。
それに対して、登記研究738号の訓令通達回答のページで回答がなされました。
結論はこれまで通りに「遺産分割による贈与」で申請すべきであり、
「遺産分割による代償譲渡」では受理されないということでした。
一見矛盾するようですが、
最高裁の判断は添付書面が正当か否かの判断であるので、
登記原因については何ら判断していないと考え、
今まで通り「遺産分割による贈与」を使うべきとしたのだと思います。
照会全文
「遺産分割による代償譲渡」
を登記原因とする所有権移転の登記の可否について
平成21年3月4日 二不登一第40号 東京法務局民事行政部長照会
平成21年3月13日 法務省民二第645号 民事局民事第二課長回答
平成21年3月13日 法務省民二第646号 民事局民事第二課長通知
【通知】
標記について、別紙甲号のとおり東京法務局民事行政部長から当職あて照会があり、別紙乙号のとおり回答したので、この旨管下登記官に周知方取り計らい願います。
【別紙甲号】
登記原因を「平成年月日遺産分割による代償譲渡」とした所有権移転の登記の申請は受理されないものと考えますが、近時、最高裁判所第一小法廷において、遺産分割調停調書に、相続人が遺産取得の代償としてその所有する建物を他の相続人に譲渡する旨の条項がある場合において、上記調書を添付してされた上記建物の所有権の移転の登記申請につき、登記原因証明情報の提供を欠くことを理由に却下した処分を違法とした判断が示されていることから、いささか疑義がありますので照会します。
【参考】
最高裁判所 平成20年12月11日 第一小法廷判決
【主文】
1.原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
2.高知地方法務局登記官が平成18年10月5日付でした上告人の同法務局同年9月11日受付第19865号所有権移転登記申請を却下する旨の決定を取り消す。
3.訴訟の費用は披上告人の負担とする。
【理由】
上告人南正の上告受理申立て理由について
1.本件は、登記義務者である上告人が、登記権利者と共同して、上告人名義の建物について所有権移転登記を申請したところ、高知地方法務局登記官から不動産登記法(以下「法」という。)61条所定の登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という。)の提供がないことを理由に申請を却下する旨の決定(以下「本件処分」という。)を受けたため、その取消を求める事案である。
2.原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1)上告人ほか4名の相続人の間で、平成18年6月15日、高知家庭裁判所において遺産分割調停が成立し、第一審判決別紙のとおりの調停調書(以下「本件調書」という。)が作成された。
本件調書には、上告人が、披相続人の遺産である土地を取得した代償として、他の相続人2名(以下「本件譲受相続人」という。)に対し、同年8月末日限り、上告人所有の建物(以下「本件建物」という。)を持分2分の1ずつの割合で譲渡する旨の条項(以下「本件条項」という。)がある。なお、本件調書において、本件建物の譲渡は、上告人の本件譲受相続人に対する代償金支払い義務があることを前提としてその支払いに代えて行われるものとはされておらず、また、その譲渡に関し、本件譲受相続人から上告人に対して反対給付が行われるものとはされていない。
(2)上告人は、本件譲受相続人と共同して、平成18年9月11日、本件建物につき、登記原因及びその日付の記載を「平成18年6月15日遺産分割による代償譲渡」とし、登記原因証明情報として本件調書を添付した所有権移転登記の申請(以下「本件申請」という。)をした。
(3)高知地方法務局登記官は、平成18年10月5日、本件申請につき、添付された本件調書には登記の原因となる事実又は法律行為(法第5条第2項)の記載がなく、登記原因証明情報の提供がないことを理由として、法第25条第9号の規定によりこれを却下する旨の本件処分をした。
3.原審は、上記事実関係の下において、本件処分は適法であると判断した。その理由の要旨は、次のとおりである。
本件申請において登記原因証明情報として添付された本件調書中の本件条項には、上告人が遺産取得の代償として本件建物を譲渡する旨が記載されているものの、それがいかなる法律行為によるものであるか特定明示されていない。本件条項をみても、本件建物の譲渡が有償であるか無償であるか、有償であるとして、だれとの間でどのような対価関係に立つものであるか等が必ずしも明らかではなく、物件変動の原因となる法律行為の特定がされているとは認められない。
したがって、本件調書には、登記の原因となる法律行為を特定する記載がなく、本件調書は登記原因証明情報の提供を欠くというべきである。
4.しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、本件条項による合意は、上告人が遺産分割によって披相続人の遺産である土地を取得する代償として本件建物を本件譲受相続人に譲渡することを内容とするものであり、その譲渡は、代償金支払義務があることを前提としてその支払に代えて行われるものとはされておらず、また、本件建物の譲渡自体について本件譲受相続人から上告人に対して反対給付が行われるものとはされていないというのであるから、上記の合意は、上告人が本件譲受相続人に対し、遺産取得の代償として本件建物を無償で譲渡することを内容とするものであるということができる。
そうすると、本件調書中の本件条項の記載は、登記の原因となる法律行為の特定に欠けるところがなく、当該法律行為を証する情報ということができるから、登記原因証明情報の提供を欠くことを理由に本件申請を却下した本件処分は違法というべきである。
5.以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、本件処分の取消を求める上告人の請求は理由があるから、これを棄却した第一審判決を取り消し、上告人の請求を認容すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉徳治、裁判官 甲斐中辰夫、裁判官 涌井紀夫、裁判官 宮川光治)
【別紙乙号】
本月4日付 二不登一第40号をもって照会のあった標記の件については、貴見のとおりと考えます。
参考資料 登記研究第738号 平成21年8月号
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補助者の山口です。
遺産分割で代償分割をした場合に、
相続人から他の相続人への移転する不動産の登記原因は
「遺産分割による贈与」です。
同様の事例で「遺産分割による代償譲渡」を原因とする登記申請を
添付情報が適正でないとして却下した処分につき訴訟となり、
昨年、最高裁で却下した処分が違法と判断されました。(平成20年12月11日判決)
そこで、「遺産分割による代償譲渡」を原因とする登記も可能になるのか
多少議論がありました。
それに対して、登記研究738号の訓令通達回答のページで回答がなされました。
結論はこれまで通りに「遺産分割による贈与」で申請すべきであり、
「遺産分割による代償譲渡」では受理されないということでした。
一見矛盾するようですが、
最高裁の判断は添付書面が正当か否かの判断であるので、
登記原因については何ら判断していないと考え、
今まで通り「遺産分割による贈与」を使うべきとしたのだと思います。
照会全文
「遺産分割による代償譲渡」
を登記原因とする所有権移転の登記の可否について
平成21年3月4日 二不登一第40号 東京法務局民事行政部長照会
平成21年3月13日 法務省民二第645号 民事局民事第二課長回答
平成21年3月13日 法務省民二第646号 民事局民事第二課長通知
【通知】
標記について、別紙甲号のとおり東京法務局民事行政部長から当職あて照会があり、別紙乙号のとおり回答したので、この旨管下登記官に周知方取り計らい願います。
【別紙甲号】
登記原因を「平成年月日遺産分割による代償譲渡」とした所有権移転の登記の申請は受理されないものと考えますが、近時、最高裁判所第一小法廷において、遺産分割調停調書に、相続人が遺産取得の代償としてその所有する建物を他の相続人に譲渡する旨の条項がある場合において、上記調書を添付してされた上記建物の所有権の移転の登記申請につき、登記原因証明情報の提供を欠くことを理由に却下した処分を違法とした判断が示されていることから、いささか疑義がありますので照会します。
【参考】
最高裁判所 平成20年12月11日 第一小法廷判決
【主文】
1.原判決を破棄し、第一審判決を取り消す。
2.高知地方法務局登記官が平成18年10月5日付でした上告人の同法務局同年9月11日受付第19865号所有権移転登記申請を却下する旨の決定を取り消す。
3.訴訟の費用は披上告人の負担とする。
【理由】
上告人南正の上告受理申立て理由について
1.本件は、登記義務者である上告人が、登記権利者と共同して、上告人名義の建物について所有権移転登記を申請したところ、高知地方法務局登記官から不動産登記法(以下「法」という。)61条所定の登記原因を証する情報(以下「登記原因証明情報」という。)の提供がないことを理由に申請を却下する旨の決定(以下「本件処分」という。)を受けたため、その取消を求める事案である。
2.原審の適法に確定した事実関係の概要は、次のとおりである。
(1)上告人ほか4名の相続人の間で、平成18年6月15日、高知家庭裁判所において遺産分割調停が成立し、第一審判決別紙のとおりの調停調書(以下「本件調書」という。)が作成された。
本件調書には、上告人が、披相続人の遺産である土地を取得した代償として、他の相続人2名(以下「本件譲受相続人」という。)に対し、同年8月末日限り、上告人所有の建物(以下「本件建物」という。)を持分2分の1ずつの割合で譲渡する旨の条項(以下「本件条項」という。)がある。なお、本件調書において、本件建物の譲渡は、上告人の本件譲受相続人に対する代償金支払い義務があることを前提としてその支払いに代えて行われるものとはされておらず、また、その譲渡に関し、本件譲受相続人から上告人に対して反対給付が行われるものとはされていない。
(2)上告人は、本件譲受相続人と共同して、平成18年9月11日、本件建物につき、登記原因及びその日付の記載を「平成18年6月15日遺産分割による代償譲渡」とし、登記原因証明情報として本件調書を添付した所有権移転登記の申請(以下「本件申請」という。)をした。
(3)高知地方法務局登記官は、平成18年10月5日、本件申請につき、添付された本件調書には登記の原因となる事実又は法律行為(法第5条第2項)の記載がなく、登記原因証明情報の提供がないことを理由として、法第25条第9号の規定によりこれを却下する旨の本件処分をした。
3.原審は、上記事実関係の下において、本件処分は適法であると判断した。その理由の要旨は、次のとおりである。
本件申請において登記原因証明情報として添付された本件調書中の本件条項には、上告人が遺産取得の代償として本件建物を譲渡する旨が記載されているものの、それがいかなる法律行為によるものであるか特定明示されていない。本件条項をみても、本件建物の譲渡が有償であるか無償であるか、有償であるとして、だれとの間でどのような対価関係に立つものであるか等が必ずしも明らかではなく、物件変動の原因となる法律行為の特定がされているとは認められない。
したがって、本件調書には、登記の原因となる法律行為を特定する記載がなく、本件調書は登記原因証明情報の提供を欠くというべきである。
4.しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
前記事実関係によれば、本件条項による合意は、上告人が遺産分割によって披相続人の遺産である土地を取得する代償として本件建物を本件譲受相続人に譲渡することを内容とするものであり、その譲渡は、代償金支払義務があることを前提としてその支払に代えて行われるものとはされておらず、また、本件建物の譲渡自体について本件譲受相続人から上告人に対して反対給付が行われるものとはされていないというのであるから、上記の合意は、上告人が本件譲受相続人に対し、遺産取得の代償として本件建物を無償で譲渡することを内容とするものであるということができる。
そうすると、本件調書中の本件条項の記載は、登記の原因となる法律行為の特定に欠けるところがなく、当該法律行為を証する情報ということができるから、登記原因証明情報の提供を欠くことを理由に本件申請を却下した本件処分は違法というべきである。
5.以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上説示したところによれば、本件処分の取消を求める上告人の請求は理由があるから、これを棄却した第一審判決を取り消し、上告人の請求を認容すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 泉徳治、裁判官 甲斐中辰夫、裁判官 涌井紀夫、裁判官 宮川光治)
【別紙乙号】
本月4日付 二不登一第40号をもって照会のあった標記の件については、貴見のとおりと考えます。
参考資料 登記研究第738号 平成21年8月号
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Category: General
Posted by: t2yamaguchi